朝日新聞  声 欄    50歳

苦痛和らげる延命治療大切


先日、苦痛を和らげる緩和治療を重視したいという趣旨の

社説を読み、どこか心がほっとしました。

がんの末期患者の延命治療をめぐり、さまざまな論争を

見聞しますが、患者本人にとって、どのような扱いが一番

人間らしく終わらせてやれるのか。これは医学論や理屈

ではなく、いやされる心と肉体を第一として考えられるべき

だと思います。瀕死(ひんし)のときに意識がなかったとしても、

発病からずっとそうであったのではないのです。きっとさんざん

苦痛をなめ尽くし、真に生きている状態とは言いがたい姿であると

思います。

人間が人間として生きるとは、どういう状態を言うのでしょうか。

将来に希望を抱き、喜びややすらぎのあることだと思います。

肉体だけが生理的に活動していても、精神が死んでしまっていては、

真に生きているとは言えないと思います。

医学や倫理学に対しては私は素人です。先刻の京北町の病院

の報道について、家族や親しい人のがん死に遭遇した方々の

投稿を読むと、たまたまほとんどがその病院の院長に対して

理解を示す内容であることに気づきました。投稿者は、社説にも

ありますが、溺死の苦しみを目の当たりにしたでしょうし、

「最後まで自分らしく生きたい。病気になっても苦しみたくない」と、身をもって

痛感したのでしょう。治る見込みのない、この上ない苦痛に

さいなまれている患者の延命治療を、私自身なら

拒否します。