京都新聞  窓 欄  平成7年5月28日   48歳

自分が自分であることは

 

アイデンティティという言葉がある。自己同一性と訳すらしい。

自分が自分であること、私はだれかという定義付けの意味でもあるらしい。

人は精神的に落ち込んだり、自らの価値観を踏みにじられたりすると、自己を回復させようと

葛藤する。回復に成功すれば、本来の自分を取り戻して、安心して日常に戻っていける。

 ところが、自己を迷路においたまま、価値観を取り戻せないと、人はどんなことになるだろうか。

昨今、マスメディアを媒体として、マインドコントロールという言葉が 日常に入り込んでいる。これを

悪い意味にとらえると、本来備えているべき当人の人格、夢、希望、尊厳といったものを、恐怖感や

危機感を、極度にあおることで剥奪してしまって、別の人格になり、価値観なりを植え付けることを

いうのだろうか。

かつての仕事を通じて、私も自己を見失うという体験をもっている。私の価値を象徴する技術なり

能力なりをことごとくマイナスイメージとして扱う傾向があり、仕事上の判断の正誤が逆さまに感じられる

トップの扱いに不信を抱きつつ、いつしか私は自分の価値観を否定するような心理状態に陥っていた。

アイデンティティをなくして、物事の虚実があいまいになり、幻聴を聞くに至る。識者のアドバイスで、

早々にその仕事から遠のき、自己を取り戻した。

 いま騒がれている宗教団体でのマインドコントロールを解くには、何が必要なのだろうか。