京都新聞 窓 欄 昭和59年4月6日 38歳
子供を利用の物売りやめて
先日、風邪気味で横になっていたところ、ドアのノックにとんで出ると、小学六年
くらいの女の子と、その母親らしき女性がにこやかに突っ立ている。あくまでもにこやかなのは、
その女性の方で、少女は一冊の薄い教科書大の本を胸に押し当て、その顔はこわばっている。
あのう、これえ・・・と少女がやっとそこまで話し始めたのに後ろから一段と晴れやかなものいいで、
”実はこの本はxx教の何々で・・・この子が・・・”としゃべり始めたものだから、かわいそうに少女は
押し黙った。
私はxx教の信者ではなかったので、その本を買ってほしいというお二人の申し出をお断りした。
ものの1分とたたぬうちに、今度は幼児をねんねこでおんぶした母親と、中学二年くらいの少年の
二人連れが、やはりさっきの母子と同じことを繰り返した。その少女にも少年にも、何のとがめもないし、
先様にも事情は おありかと思うのだが、私はやっぱり本は買わなかった。ドアの外をのぞいてみると、
同じような二人ずれを見かけた。
今、その宗教の種類さえ私の記憶になiい。まだいたいけな少女や少年の、あのおどおどした目を
思い返すと、彼らの母親であろう大人の、あるべき良識を疑うのは私の偏見か。
あれは何のための親子連れか、とつきつめるようなことは、私の了見の狭さか。あるいはあのときの
風邪のせいなのか。
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