京都新聞 窓 欄 48歳
ワープロでも漢字忘れない
ワープロを使用すると、漢字を忘れるという人がいるが、私は逆の
解釈と体験を持つ。キーボードの文字が
ストレートに印字される英文タイプなどと違い、日本語ワープロには
「変換」いう操作が要る。かなやローマ字入力をしてから、漢字、カタカナ、
欧文などに変換する。
漢字変換の際、モニターには複数の同音異義の漢字が並ぶ。文脈から
正しい漢字を選択するには、まずオペレーター自身が正しい漢字の知識を
要求される。モニターにどれほどたくさんの漢字が並んでも、その中から
どの漢字を選択すべきか判断するのは、最終的には機械ではなく、人間に
頼るべき作業である。私自身は頻繁に辞書を利用する。新しい漢字の発見、
あやふやな書き方でいた漢字も、あらためてワープロに正されることが多い。
また、年賀状や手紙をワープロで出すのは心が通わず失礼だと指摘する人が
いるが、これにも私は異説を唱える。ワープロで文字を作ったり、絵を描こうと思うと、
どれ程の熱意と時間が必要か。わずか一ミリ足らずの線や点から、令状や案内状
を生み出す作業を、私は決して冷たく失礼などとは考えない。市販の」サンプル帳を
コピーして出す年賀状などとはちがって、機械は機械でも、使いこなすワープロが
生み出すものは温かく心のこもった贈り物だ。
物の好き嫌いをいうのは自由である。肉筆に陶酔するもよし。ただ肉筆と機械文字
とを比較して何の意味があるのだろうか。双方、作り上げる過程・方法が全く別の
世界なのだから。