京都新聞  こまど 欄  40歳

初雪を見ました。

と、いってもブラウン管を通して、北海道のことですが。

瀬戸内海に面した温暖な土地に生まれ育った私は、十月に

降る雪など珍しいどころか、白銀に覆われた美しい幻想の世界

さえ思い描きました。数年前に日本列島を埋め尽くしたドカ雪にも、

私は胸躍る思いで、降雪が即人の生活を脅かす、雪国の悲壮を

憂うことも忘れる薄情さでした。

もう二十年以上も前のことになります。一人下宿生活を送っていた

私は、知人縁者もない土地で、初めての冬を迎えました。十二月に

入っても私はまだ薄い、あいものコートを着ていました。雪こそ降ることは

なかったのですが、京都の街は凍るような比叡下ろしが吹いて、私は

少々感傷的になっていました。

田舎の両親から、わざわざオーダーメイドの厚いコートが送られてきたのは、

その年の京都の街に初雪の舞う前日でした。

霜降りのような起毛タイプの、生地、大きな襟、たっぷりとられた裾のフレヤー

裏地はピンクの、遠く離れて暮らす娘のためにつくられた、今は

思いでのコートでした。

まるで示し合わせたように、初雪の日に間に合った温かい両親の

ぬくもりでした。



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ブラウン管・・・・・、ですって、時代がわかります。