京都新聞 こまど 欄 昭和58年12月5日掲載 37歳
手編みの季節
道路という道路、わくらばが敷きつめる。寒くなった。こんな季節にはコタツで手編みをするのが
好ましい。日当たりのよい部屋なら、編み上がってゆく毛糸の柔らかな手ざわりに、身も心も
ポカポカと安らぐだろう。
白い毛糸が特大の紙バッグに、ぎっしりつまって押し入れに眠っている。モヘア、混毛、純毛と、ここ
数年間に買い集めたものばかり。ついでに真っ赤な純毛の並太が、タンスの上で退屈そうだ。小学
二年の娘にお正月用にカーディガンを編み上げてやろうと、つい一カ月前に買い求めたも のである。
まだ子供たちが学童前、昼寝の間に、夜主人の帰宅するまでの一時にと、私はよく手編みを楽しんだ。
私のコートは二カ月かかった。夜も昼もなかった。ひたすら一念を貫いた。
けれど仕事を持つようになると、まず物理的に時間を失った。一針一針と、その心をなくして
しまった。
赤い毛糸。仕事が優先して編みかけたまま。この季節、店先で毛糸を見ると、つい手を出す。ここ何年も
大作に取り組む決心もつかないくせに。
子供たちも小二、小4と成長した。もう誰にも着てもらえるあてもないと分かっていながら、私は私の歴史の
染み込んだ作品を、今年も手に取り感触を確かめては、またそっとしまいこんでしまう。